会席を楽しみたい時に読む「辻調感動和食の味わい種明かし帖」
突然ですけど、日本って良い国ですよね。
ほんとに、しみじみ思います。
梅雨の雨続きで気持ちがスローペースになりがちな時も、雨に濡れた紫陽花の鮮やかな色が目に入れば気持ちも切り替わりますし。
自然が豊かで四季がある事、これはとにかく素晴らしい事。
この四季折々の季節感や移ろい、そして常にそれらをはかなむ気持ちが古来から日本の衣食住すべての暮らしを豊かにしてきたのかと思います。
そこで今回は、「食」について日本の四季折々の味わいをわかりやすく教えてくれる本として、辻調理師専門学校校長・辻芳樹さんが監修された『辻調 感動和食の味わい種明かし帖 小学館』をご紹介したく。
こちらは、「和食」というより「正統和食」 、つまり会席料理の味わい方について細部まで教えてくれる一冊。
辻芳樹さんがこの本で伝えたい事は、前書きに書かれた「正統な和食、日本料理はもっと自由なもの」という言葉にすべて凝縮されているかと感じるのですが、ここで前書きから一部を引用しますと。
本当に素晴らしい料理であれば、なんの予備知識を持たずに食べても素直に感動します。けれど、日本料理は総合芸術。食材、調理法、味付け、料理に使われる器、運ばれたときの料理の温度、店のしつらえに至るまで、見どころは多岐にわたります。それを堅苦しいと苦手意識を持つのか、おもしろいと興味を持つのか。どちらにしても、まず日本料理の基本となる形を知る事です。そうすれば、実際に行く店で発見する面白さは確実に増えます。歌舞伎や芸能の舞台と同じです。揺るがない伝統があるから、遊びや新しい解釈が自由に生まれ、食べる側には気づく喜びがある。それが本来の日本料理です。
そうか!日本料理も「形」を知る事から始めれば良いのか!
ここのつ、目からウロコでありました。
歌舞伎のような日本芸能も一見取っ付きにくいと思われがちですが、「型」があると言う意味では時代劇と同じようなもので、「型」を知ってしまえば全て基本形の「焼き直し」と言っても過言ではなく、だからこそ見ている側は安心して最後まで楽しめる訳です。(時代劇では、どんな展開があっても最後には正義が勝つのがストーリーのように、歌舞伎も「型」がある意味では全く同じ。)
つまり、会席料理も、歌舞伎や時代劇を見る様に「型」という流れに身を任せてリラックスしながら、自分の気持ちに自由に驚いたり感動したりすれば良いと!!
構成は、和食を味わうための「基本のき」である料理の献立の「見どころ」解説から始まるのですが、どうやら日本料理とは前半に大きな山場(椀や造り)があり、その後は料理ごとに味や量の強弱がついて流れていくとのことで。
それって、本当に、エンターテイメントそのもの!
そんな風に考えた事がなかったから本当に驚きました。
そして、品書きの読み方について。
辻さんがおっしゃるには、本格的な日本料理のお店で出される「お品書き」と言うのは「台本」のことだ、と。
品書きを眺め、登場人物(献立の内容)や場面紹介(「◯◯仕立て」といった調理法)の演出を事前に想像してまずは楽しみ、本番では自分の五感をフル活動させて一口ずつ味わえば良いと。
これだけで「会席料理」が、参加型エンターテイメントのように思えてくる不思議v
本文では、その「型」の構成である献立の一品ずつを分解して親しみやすいイラストと読みやすいコラムで図解で解説しつつ、会食を自由に楽しむための「ツボ」や食を愛した文人たちのエピソードや豆知識も交えてあって気楽に読み進められます。
個人的に好きなページは「なるほどコラム」。
和包丁、かいしき(料理と器の間に敷く紙や葉っぱなどのこと)や天盛り(料理のてっぺんにちょっと添える木の芽や針柚子のこと)など、日本料理に欠かせないお道具や食材、名脇役がイラスト一覧ページになっていて、見てて読んでて実に飽きない!
それにしても、写真でなく、イラスト仕立てというのがこの本の良い所ですね。
イラストの方が写真よりイメージが膨らみやすいからかな。
あぁ面白い!
でもまぁ、そうは言っても、やっぱりそんな気楽な事ではないのも日本料理、ですよね。
辻さんも、日本料理はどの料理よりも経験値が要求されるし、とにかく足を運んで食べてみるしか経験値を上げる事はできませんとおっしゃってるし。
(そんなお金ないし・・・・)
ただ、次の言葉、ここチェック。
食体験を磨くには、どこの店に行くかよりも、誰と行くかが重要です。
そうなんですね、「どこに」ではなく「誰と」行くかが大事。
そして「料理や料理人、食材に対して敬意を払う良いコーチを持ちなさい」とのお言葉も。
美味しいものを食べたいなら日本食を選んで経験を積む事が何より必要ですが、その自己投資をする時に良い「食のコーチ」を持つということ。
良いコーチがそばにいるなら最高ですが、そうでない場合にこの本が「コーチ本」としてその一端を担ってくれます。実際の場面でわからないことが出て来たら、それは料理人さんやお店のスタッフに臆せず聞いてみることで本の知識も身体に定着していく、と。
こうやって少しずつ和食を理解していく事は、自分の国を知る事に繋がること。
食は文化なり。
この本は、一読して本棚にしまっておくより、いつもそばにおいて、雨の日の午後とかの何気ない時に手に取りながら読み進めていくのがぴったりと思います。
おまけの一冊:さらに踏み込んだ和食の世界について辻さんが書いてらっしゃるのが下記。こちらもオススメ。是非。